追想のレプリカ

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追想のレプリカ

 梅雨時期のじめっとした空気は駅に降り立つだけで、うっそうと生い茂るあのどくだみ草の匂いが風に乗ってきたような気がした。  数年暮らしていたというのに、街並みは大都市と大差なく、きれいに整えられた駅前を見て、この土地から出る前のことを振り返った。  追い出されるようにアパートを出て親戚などを頼り点々としていた。中学、高校と少ない家計のやりくりで学校に通うことができたが、どうしても勉強がしたかった美羽は親戚を頼り、奨学金とアルバイトをして食いつないでいった。  母と姉は今、どうしているか知らない。姉が美羽の大学進学に猛反対をし、包丁をもって暴れたことで家を飛び出したからだ。大学に無事進学し、暇さえあればドールハウスやミニチュア模型をつくり続けていた。  横浜に移り住み、就職してもなお、趣味は続けていた。きっかけは友人の結婚式でドールハウスを送ったことだ。友人のご両親がその出来栄えに感銘し、結婚式でも紹介してくれた。他の列席者も欲しいという声を聞き、試しにつくるようになった。友人のご両親が営む喫茶店にギャラリーに御好意で2、3点ほど飾らせてもらうようになった。口コミで美羽のつくるドールハウスや箱庭の評判が伝わり、欲しい人につくるようになった。友人の勧めで『思い出の家や庭を再現します』というブログを開設したところ、反響があり、数件の依頼を受けるようになった。さすがに仕事と趣味との両立にバランスが生じ、退職し、アルバイトをしながらも受注が入るたびに、ドールハウスやミニチュア模型をつくるようになった。
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