追想のレプリカ

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「これは売り物ではないので」 「そういってるんだけど、聞かないんだよ」  美羽が弱々しく返す言葉に友人のお父さんは困った顔をしながら、コーヒーの準備をしていた。 「似ているんですよ、昔住んでいた家に」 「そう……ですか」 「裏にアパートがあったんですが、区画整理で取り壊しになってしまって」  コーヒーどうぞ、とおばさんが持ってきてくれた。美羽はおばさんに、これ、新作ですと持ってきた大きな紙袋に入ったドールハウスとミニチュア模型を差しだすとおじさんもおばさんもうれしそうに喜んでいた。 「この庭に生えているどくだみ草って抜いても抜いてもすぐ生えて嫌になりますよね。裏庭にも生えていて嫌になりましたよ」  やわらかなこげ茶色の短髪に、二重瞼にすっとした鼻筋。肉厚な唇をもつ端正な顔つきは誰かに似ていた。 「向かいに住んでいた男の子とよく遊ぶ機会があって、その子が結婚するっていうんで、こちらに戻ってきたところなんです。彼の奥さんのおうちを再現した写真を見せてもらいました。ギャラリーがあると教えてくれたのでこの喫茶店へ立ち寄りました。ブログでみるよりもやっぱり現物のほうがいいですね」 「ありがとうございます」 「細部にもちゃんと凝っていて、納得いく仕事をしていらっしゃるんですね」  五十嵐はおばさんがカウンターへ作品を置くと同時にその前に移動し、くまなくチェックしている。目の輝きが一層強く感じられた。
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