追憶のレプリカ

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 街と呼ばれる駅周辺に母と一緒にいけるのはいつも楽しみだった。月末になると決まって母の乗る自転車の後ろに座り、しがみついているだけで楽しかった。家から離れると少しずつ車も人も多くて住んでいるところとはまったく違う雰囲気に美羽は驚きとともに興奮した。窮屈に立ち並ぶビルの隙間に自転車をとめた。お金の絵の看板が目立つ雑居ビルの1階に入り、白いスモークの入った自動ドアをくぐると、母はいつも神妙な面持ちになる。ピカピカな白い床と茶色の椅子、机の上にはいろんな色のアメダマが銀色のカゴに入れてあった。  険しい顔をしながら母は背広を着た男の人と話していた。帰り際、黒いベストに同色のスカートを身につけた女の人がかけよってきて、これあげると銀色のカゴの中に入っていたオレンジ色とピンク色のアメダマを差しだした。てのひらにのせるとアメダマでいっぱいになった。振り返るとお金の絵の横にカタカナの文字があった。 「お母さん、ローンって何?」 「知らなくていいの」  自転車をこいでいる母の横顔は少しだけ曇っている。空を見上げれば雲のないきれいな青空がひろがり、自転車から受ける風がとても心地よかった。
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