1人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
知らないオジサンが美羽ちゃんチに入っていったよと、どこかの温泉へ家族旅行をしたと箱に入った温泉まんじゅうをもらいながら結衣ちゃんから話を聞いたのはゴールデンウィークが過ぎた頃だ。知らないオジサンは眼鏡をかけていなかったそうだ。
知らないオジサンは一度も目にしたことがなかった。だが、夜、寝静まると建てつけが悪い引き戸をこじあけながら母が帰ってきているのだが、遅れて低い声が後を追っていた。
「そっちは開けないで」
と甘ったるい声を母はあげていた。どこからともなく甲高い声がする。聴いたことがない一定のリズムで。その声が聴こえはじめると姉は黙って枕の近くにあったラジカセのスイッチを押し、ラジオをつけていた。ラジオから流れるおじさんの声にかき消され、安心して眠ることができた。次の日、母に変な声がしていたよと聞いてみるが、母は『マッサージ』が気持ちよかったからそういう声を出しちゃったのよ、と照れくさそうに言っていた。
夜ごと聞こえる『マッサージ』と称した音でしばらく眠れなかった。隣にいた姉はラジオをつけて、頭まですっぽりと掛け布団をかぶっていた。
最初のコメントを投稿しよう!