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二階に上がり廊下を進むと音楽室の大きな扉が二人を出迎える。一旦、箱を置いて二人で扉を両側から開ける。
「重いよね。この扉」
「季節によって重さが変わるんだよ」乾燥や湿気で扉の重さが時々変わる。
「そうなんだあ」
そう言いながらも芦田さんは扉を楽々と開けた。芦田さんって、力が強いの?
音楽室に入り箱を物置の扉を開け空いている棚に二人でよいしょっと声を出して入れた。 たくさんの埃が舞いながら落ちてくる。
箱を置くと私は服に付いた埃を払った。
「石谷さん、すごく助かった。ありがとう」
芦田さんの頬に黒い汚れが付いている。
「芦田さん、ちょっと、そのままじっとしてて」
私はハンカチでそっと芦田さんの頬の汚れを拭う。
「あっ、何かついてた?」芦田さんはきょとんとした顔で私を見る。
「うん、ちょっとね」汚れが綺麗にとれた。
音楽室の教壇にはオルガン、隅にはピアノが置いてある。
「あのね、石谷さん、私ね、音楽、苦手なの」
芦田さんが置かれてある色んな楽器を見ながら呟く。
「そうなの?」どうしてこの子はそんなこと言い出すの?
「本当は算数も国語も苦手なんだけど。音楽はその中でもひどい成績なの」
算数は芦田さん、よく先生に怒られてたっけ。そういえば国語も。いや、理科も。
「私は音楽の成績はいいよ」正直に言う。
「石谷さんは音楽だけじゃないでしょ。算数だって、先生にいっつも褒められてるし」
芦田さんの視線がピアノの位置で止まった。
「勉強すれば、誰だってできるようになるわ」
「してるよお。しないとお母さんに怒られるから」
私は怒られなくてもする。
「部屋の中、埃っぽいから、窓をしばらく開けておこうか」
私はそう言って音楽室の窓のところに行った。窓は錆びついているせいなのか、かたい。 窓を開けると新鮮な空気が流れ込んできた。
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