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目の前にたくさんの傘が浮かんでいる。
秋雨のもたらす霧で傘を持つ人が霞み、色取り取りの傘が道に浮いているように見える。
生徒の親たちが傘を持って来ていない子供のために傘を持って迎えに来ているのだ。
僕は校門前で叔母さんが傘を持ってきてくれるのを待っていると、たくさんの傘の中から叔母さんの傘をすぐに見つけることができた。
「陽ちゃん、遅なってごめん」
叔母さんは僕を見つけると駆け寄ってきた。
やっぱり、叔母さんも僕を見つけるのがはやい。
「どの傘にしようかな、って考えてたら遅なってしもうてん」
叔母さんは僕に持ってきた方の傘を差し出した。
「叔母さん、この傘、女ものや!」
明らかに女ものとわかる真っ赤な傘だ。
「ごめんね、私、選びすぎて最後は私の好みになってしまって・・どないしよう」
叔母さん、絶対にわざとだ。
僕は仕方なしに赤い傘を受け取って差した。
「でも、陽ちゃんに似合うてるよ」叔母さんはすごく楽しそうだ。
「こんなん似合ったらおかしいやんか」
クラスの他の子に見つからないように傘を前に倒して顔が見えないようにした。
「叔母さん、はよ、帰ろっ!」
僕と叔母さんは二つの傘をごつんごつんと互いに当てながら並んで歩き出した。
「ねえ、陽ちゃん、傘を一つにした方がよくない?」
「叔母さん、そういうのを相合傘って言うんや」
「それもそうやね。やめとく?」
相合傘も見られたら恥ずかしいし、赤い傘を差しているのも格好悪い。
「叔母さん、やっぱり、この傘、格好悪いから、そっちに入れて」
僕は赤い傘を閉じ足を横に踏み出した。
叔母さんの体にぶつかっていくようで少し照れくさい。
雨が本格的に降り出した。
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