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「先月に海外出張から、戻ってきたばかりなのですよ。
たまの休みにも、現地で美術館巡りをしていたとか」
柳茶さんは、海外における日本画や彫刻の位置づけを熱く語り始めた。
熱心なコレクターうんぬんの所で、危うくまどろみかけた。
残念ながら高尚すぎる趣味なので、私はついていけそうに無い。
見かねた水花ちゃんが、口を開く。
「特別展示室には、防犯カメラが無かったな。
予算の関係か?」
「よくご覧になっていますね」
柳茶さんは、嘆声を上げた。
「香染の言う話にも、一理あります。
資金繰りが厳しいため、防犯機器にまで予算が回らないのです。
最もうちの美術館だけに、限った話ではありませんが」
「もし盗みや作品へのいたずらがあったら、どうするつもりだ」
「学芸員には、解説と同時に不良行為への監視も申しつけています。
それに」
声を一段低くして、柳茶さんは用心深く周囲を見渡した。
「作品には全て保険が、掛けてあります。
特に目玉品の、一休僧正の屏風にはね。
ここだけの話ですが。破壊でもあったほうが、当館としては潤うのですよ」
話し込んでいるうち、いつのまにやら時間が経っていたようだ。
既にスマホの画面表示は、四時半になっていた。
「どうするつもりだ、小鷹女史」
水花ちゃんがうめく。
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