第九席 抜け出す虎の謎

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「先月に海外出張から、戻ってきたばかりなのですよ。  たまの休みにも、現地で美術館巡りをしていたとか」  柳茶さんは、海外における日本画や彫刻の位置づけを熱く語り始めた。  熱心なコレクターうんぬんの所で、危うくまどろみかけた。  残念ながら高尚すぎる趣味なので、私はついていけそうに無い。  見かねた水花ちゃんが、口を開く。 「特別展示室には、防犯カメラが無かったな。  予算の関係か?」 「よくご覧になっていますね」  柳茶さんは、嘆声を上げた。 「香染の言う話にも、一理あります。  資金繰りが厳しいため、防犯機器にまで予算が回らないのです。  最もうちの美術館だけに、限った話ではありませんが」 「もし盗みや作品へのいたずらがあったら、どうするつもりだ」 「学芸員には、解説と同時に不良行為への監視も申しつけています。  それに」  声を一段低くして、柳茶さんは用心深く周囲を見渡した。 「作品には全て保険が、掛けてあります。  特に目玉品の、一休僧正の屏風にはね。  ここだけの話ですが。破壊でもあったほうが、当館としては潤うのですよ」  話し込んでいるうち、いつのまにやら時間が経っていたようだ。  既にスマホの画面表示は、四時半になっていた。 「どうするつもりだ、小鷹女史」  水花ちゃんがうめく。
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