第九席 抜け出す虎の謎

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 電車とバスで一時間ほどの美術館は、正午なので見渡す限りの人、人、人だった。  中でも一番の注目を集めている、珍しい展示品が特別展示室にあった。  高さ10メートルほどの吹き抜けになっており、高級感が漂っている。  部屋の上部には採光用のガラス窓があるが、作品保護のためか窓には重い暗幕が垂れている。  和室を模した、畳と障子のスペースになっている。  厚みは少ないが幅三メートルはありそうな、金箔地に今にも動き出しそうな虎が描いてある、古めかしい屏風だった。 「これが一休さんが、虎を追い出してくださいといった有名な屏風なのね」 「せいぜい目に焼き付けておくんだぞ。  全国初公開だからな」  水花ちゃんが、つま先立ちで精いっぱい背伸びをしながら呟く。  珍しい一品を人目見ておこうと、必死のようだ。  あまりに多すぎる人の波に紛れて、雷花ちゃんはいつの間にか私達の前から姿を消していた。  本来私は、休日を美術館で過ごすような、優雅な趣味の持ち主では無い。  白花姉妹と連れだって、公開初日で混雑必須の戦場へ足を運んだのには、理由がある。  それは昨日夕方五時の、お茶会にさかのぼる。  ほらこれ、と水花ちゃんが差しだしてきた一枚の長方形の紙。 「へえ。  美術館の優待チケットか」  十月も半ばで秋真っ盛りには、いい催しかもしれない。
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