第九席 抜け出す虎の謎

5/17
前へ
/142ページ
次へ
「そろそろ甘い物が、食べたくなってきたぞ」 「無論、すぐにお出しするとも。  ケーキがいいかね? それとも杏蜜かい?」  スイーツは非常に美味だった。  事件の話を差し引いたとしても。  ランチを堪能した私達は、事務所を兼ねた館長室へ移動した。 「屏風を買い取ってからというもの。  必ず夜中二時に、特別展示室の警報が鳴ってしまうのです」  館長は控えめに、溜息をついた。 「守衛が急行しても、現場には誰もいないのです。  侵入どころか、何かが盗まれた形跡も無しときた」 「機械が故障しているのでは、ありませんか?」  私の所属する事務所でも、退勤後には各部屋にセンサーをセットしている。  ここだけの話、事務所部分は十一月から、とある理由でオフになっているのだが。 「専門業者に検査して貰いました。  異常は無いそうです」 「センサーの種類は、なんでしょう」 「室内用赤外線センサーですよ。  人の体温と、周囲の温度差を検知します」  館長は天井の隅を、指さした。  白いまんじゅうを逆さにしたような形の、半球体が取りつけられている。 「丈夫な縄を用意しておいたほうが、良さそうだな」  何がおかしいのか、水花ちゃんがくつくつと笑い声を立てた。  館長が苦笑いをする。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加