第九席 抜け出す虎の謎

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「最近では、夜勤の守衛達によくからかわれるんです」 「あの、どういう意味です?」  私だけついていくことができず、ぽかんとする。 「性質の悪い冗談ですよ。  虎が夜な夜な抜け出している、とでも思っているのでしょう」  なるほど。  一休さんのとんちと、かけている訳だ。 「特別展示室には、侵入できそうな場所がありますか?」 「採光窓ははめ殺しです。  ドアは二か所あります。  閉館作業時に、非接触型カードキーで電子ロックを行います」  館長は首から下げた、見覚えのあるIDカードを目の前に掲げた。 「千博さんが、持っていましたね」 「私、副館長の柳茶、学芸員長の香染(こうぞめ)。  他に守衛も所持しています」 「夜中の警備態勢を、教えて貰っても?」 「大したことはありませんよ」  館長は鷹揚に笑った。 「正面エントランス、中央フロアにも。  赤外線センサーを取り付けてあります。  他の部屋もありますが、まだ知りたいですかな?」 「いいえ。  正面から特別展示室までの、最短ルートだけで充分です」  それだけではありませんよ、と彼は語り続けた。 「加えて二名の守衛が、常駐しています。  午後五時から日付が変わるまで詰所で、報知機盤を監視します」 「巡回場所は、決まっていますか」 「零時以降は一時間毎に、一人が館内と外周を分けて巡回します。  警察OBで、信用できる人達ですよ」
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