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「カードキーを盗むことは、できそうですか」
「詰所の鍵を掛けたボックスに、予備が保管してあります。
閉館すると、正面入り口と通用口は当番の職員によって施錠される。
施錠前も必ず、残っている客はいないか巡回して周る。
だから潜伏することは、できませんよ」
「侵入にはまず、鍵のかかった館内へ。
次に特別展示室までのセンサー。
と二種類の関門があるのですね」
侵入者がいたとすれば、どうやって施錠された美術館に侵入できたのだろう。
それも特別展示室のセンサーしか、ひっかからず何の痕跡も残さないで。
ふうん、と私は考え込んだ。
ここで館長は、右手の年季が入った腕時計を見た。
「もうこんな時間か。
私はここで失礼するよ。
質問があれば、何でも香染に聞いてください」
そう言い置いて、館長は小さな鞄を持つと慌ただしく通用口へ向かった。
入れ違うように、よれよれのスーツを着たくせ毛の男性が入室した。
三十歳前後のまだまだ若そうな人だった。
が、疲れからか目の下にはクマが出来ている。
良く見ると顎に、無精ひげが生えたままになっていた。
見栄えの悪いことこの上無い。
彼はスチール机に置かれた、コンビニ袋を恨めしそうに見つめた。
「嫌になるよ。
休憩も取らせずに、人をこき使いやがって」
「良かったら、食事を取って下さい」
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