第九席 抜け出す虎の謎

8/17
前へ
/142ページ
次へ
 ハウスメイドも不規則な休憩なので、同情心が湧いてきた。 「桑茶の知り合いにしては、良い人だな。  じゃあ、お言葉に甘えるとするか」  言うが早いか、おにぎりのパックを勢いよく開封し始めた。 「開閉館の作業は、誰が行うんだ?」  水花ちゃんが、口を挟んだ。  香染さんは、おにぎりを貪るのに夢中だった。  おそらく誰と会話しているかも、分かっているか怪しい。 「そりゃあ俺達学芸員さ」 「意外だな。  客の誘導や放送は、守衛がしているものと考えていたが」 「よくぞ言ってくれたな」  香染さんは、一リットルの水ボトルに口をつけて、らっぱ飲みした。 「あいつは学芸員を、雑用と勘違いしているんだ。  やれ掃除だの、窓の施錠確認だのって。  さっさと帰りたいのに、一人だけ残されて不公平だ」 「では守衛さんは、いつ出勤して来ますの?」  ようやく一息ついた香染さんは、ここで初めて雷花ちゃんに目を向けた。 「ぼちぼちじゃないか?  午後五時から、勤務開始だよ。  桑茶のやつ、給料をけちっているのさ。  閉館ジャストまで、仕事はさせない腹積もりなんだ」 「香染さんは、特別展示室の件をどうお考えですの?」 「どうだっていいさ。  近々辞める予定だからね」  彼はコンビニ袋に、ペットボトルとおにぎりを梱包していたビニールを、分別せずに詰め込んだ。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加