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「なぜ辞めてしまいますの?」
「経営状態が悪いからさ」
ふんっ、と香染さんは馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「桑茶のやつ、たくさんの会社へ金策に走っているって噂だぜ」
「お客様に悪口を言うのは、よさないか」
威圧的な態度で、傲然と中年男性が歩いてきた。
骨ばった顔で痩身、不健康そうな血の気の薄い顔色をしている。
香染さんへ注意する口調には、わずかに苛立ちが隠れていた。
「けっ。副館長最近、出張が多いですよね。
なにか経費でも、ちょろまかしてるんじゃないですか」
すると中年男性は、鬼のような顔で香染さんを睨みつけた。
蛇に睨まれた蛙状態の彼は、目を伏せそそくさと事務室を出て行った。
「すみませんね。どうにもがさつでいけません」
副館長の柳茶さんは、にこりともせずにどっかりとパイプ椅子へ腰かけた。
フレームに錆びの浮いたパイプ椅子は、ぎしりと耳触りな音を立てて軋んだ。
「若紫のように、優秀な人材が多く欲しいものです」
「有能な秘書を、体現したような人ですもんね」
黒ぶち眼鏡をかけて、人差し指でクイッとずりあげていそうなイメージ。
「向学心にも富んでいましてね」
なぜか柳茶さんは、自分のことのように自慢してくる
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