第九席 抜け出す虎の謎

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「なぜ辞めてしまいますの?」 「経営状態が悪いからさ」  ふんっ、と香染さんは馬鹿にするように鼻を鳴らす。 「桑茶のやつ、たくさんの会社へ金策に走っているって噂だぜ」 「お客様に悪口を言うのは、よさないか」  威圧的な態度で、傲然と中年男性が歩いてきた。  骨ばった顔で痩身、不健康そうな血の気の薄い顔色をしている。  香染さんへ注意する口調には、わずかに苛立ちが隠れていた。 「けっ。副館長最近、出張が多いですよね。  なにか経費でも、ちょろまかしてるんじゃないですか」  すると中年男性は、鬼のような顔で香染さんを睨みつけた。  蛇に睨まれた蛙状態の彼は、目を伏せそそくさと事務室を出て行った。 「すみませんね。どうにもがさつでいけません」  副館長の柳茶さんは、にこりともせずにどっかりとパイプ椅子へ腰かけた。  フレームに錆びの浮いたパイプ椅子は、ぎしりと耳触りな音を立てて軋んだ。 「若紫のように、優秀な人材が多く欲しいものです」 「有能な秘書を、体現したような人ですもんね」  黒ぶち眼鏡をかけて、人差し指でクイッとずりあげていそうなイメージ。 「向学心にも富んでいましてね」  なぜか柳茶さんは、自分のことのように自慢してくる
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