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その時天井のスピーカーから、物悲しいメロディが流れ出した。
「閉館まで長々とお引き止めしてしまい、すみませんでした」
柳茶さんが、慇懃に頭を下げる。
「よろしければ、館内全ての部屋を案内して頂けませんか?」
「結構ですよ。
気の済むまでどうぞ」
すると彼はなぜか、上着と高価そうなビジネスバッグを持ち退室した。
代わりに、むっつり不機嫌な顔の香染さんが現れた。
会議室、職員用休憩室、果ては女子更衣室まで。
人が残っていそうな場所を、くまなく早足で巡回していく香染さん。
一度などトイレの電気を消し忘れていたので、指摘してあげた。
案外、適当に歩いているだけのような気がする。
「ちょっと屏風を見てきても、大丈夫ですか?」
「いいぜ。
どうせ最後に回る場所だ」
雷花ちゃんのお願いを、彼はぶっきらぼうながら承諾してくれた。
そうして白花姉妹は、正面エントランス方面にスキップして行った。
私はといえば、散らかった倉庫か物置きらしき部屋に移動した。
有名絵画の複製画や、長いはしご、消火器、大小様々な多数のケースが雑然と積まれている。
普段入る事の出来ない場所だと考えると、意外と悪くないものだ。
私は両手に丁度載る大きさの、正方形のケースを手に取った。
「これって、展示品を守るガラスケースですよね」
「それはアクリルさ」
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