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学芸員の血が騒ぐのか、意外と丁寧な解説が始まった。
「光線透過率は、ガラスをも凌ぎ見栄えがいい。
さらに耐衝撃性も抜群。
なんと、ガラスの十六倍もの強度を持つ。
水族館の巨大水槽に使われているのは、よく知られた話だな」
ぱちぱちぱち、と思わず拍手をしてしまった。
絵具のイメージが強かっただけに、目から鱗だ。
アクリル談義に花を咲かせているうち、屏風の前に到着。
雷花ちゃんが、心配そうに暗幕を指さした。
「少し空いていて、夕日が差し込んでいますわ」
「やべっ」
見上げると、採光窓を通して茜色の光が漏れていた。
天井のセンサーを通過し、屏風の端までしっかり照らし出している。
慌てて暗幕のスイッチを押し、位置を修正する学芸員長。
「桑茶に知られたら、どやされるところだぜ」
「まあ朝から開けっぱなしだったがな」
容赦なくばっさりと、水花ちゃんが切り捨てた。
翌日の朝、開館時間前だが私は美術館に電話した。
面倒くさそうな、香染さんの第一声が迎えてくれた。
彼に頼みこんで、ようやく館長に代わって貰った。
「昨日はどうも。
抜け出る虎の手掛かりを、掴む事はできましたかな」
「ざっくりとはね」
受話器のむこうで、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
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