第十席 水花という少女

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 水花という奴と初めて会ったのは、いつだったか。  そう、蝉の鳴き声が徐々に聞こえなくなり、吹き渡る風に一抹の涼しさが混じり始めた頃だ。  午後の日課通り、私は人気の無い公園のベンチでまどろんでいた。  そよぐ風と温かな昼下がりの陽光を、全身で感じる幸せ。  私は気付かないうちに、うつらうつらしていた。  がさがさっ、と草むらの擦れるような音が近くでして跳ね起きた。  目の前には、一人の少女が立っていた。  小柄な体つきに、私と同じ漆黒の髪の毛。  顕微鏡でプレパラート上の資料を、観察するような。  あるいは私を値踏みしているような、じっと澄んだ視線。  手には白いビニール袋を提げている。  食料でも詰まっているのか、風を受けて揺れるたび耳触りな音を立てた。  彼女と目があったが、私は先客だ。  特等席であるベンチを譲る気など、毛頭無かった。  ふい、と彼女から視線を外し日光浴に戻ろうとした。 「お前もこの場所が好きなのか?」  すると図々しくも彼女は、私の隣に腰掛けて来た。  呆気にとられた私は、彼女のぱちぱちと開閉を繰り返す瞳を見た。  なんだか興が削がれてしまった。  私はしぶしぶ、ベンチを離れようとした。 「すまない。邪魔したようだな」  意外にも彼女はさっ、と席を立ち私がベンチから歩み出すのを手で制した。 「お詫びと言ってはなんだが」  しばらくビニール袋をごそごそやっていたかと思うと、香ばしい香りのする包みを取りだした。
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