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「あんぱんだ。
少し持っていくがいい」
私に向けて押し付けるように半分寄こすと、早々に去って行った。
変な奴もいたものだ、と思う。
相手の姿が視界から消えた事を確認し、甘ったるいパンを頂いた。
その日以来、彼女はたびたび公園に姿を現した。
一方的に話しかけてくるうち、相手の名前が水花らしいということは分かった。
私から特にこれといって、言葉を交わすことはなかった。
お互い木陰の風がそよぐ涼しいベンチで、少し休んでは家に戻るだけ。
そんな水花がある日、透き通るような栗色の長い髪が美しい、仲間を連れて来た。
「まあ!
可愛いお友達ですこと」
言うなり彼女は、不躾にも私の頭をさらさらと撫でた。
「やめておけ、雷花姉ぇ。
嫌がっているではないか」
水花が私との間に、すっ、と割って入った。
「私ったら、つい。
ごめんなさいね」
軽く栗色の髪の少女が、軽く頭を下げた。
「そうですわ!」
そしてぱんっ、と両手を打ち合わせる。
「せっかくの機会ですもの。
小鷹さんにも、紹介してあげてはいかがでしょう」
「だめだ」
水花が残念そうに、ふるふると頭を振った。
どこか悲しさと諦めの混じった瞳で、私を見つめて一言呟く。
「小鷹女史は、猫アレルギーなんだ」
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