第十席 水花という少女

3/3
前へ
/142ページ
次へ
「あんぱんだ。  少し持っていくがいい」  私に向けて押し付けるように半分寄こすと、早々に去って行った。  変な奴もいたものだ、と思う。  相手の姿が視界から消えた事を確認し、甘ったるいパンを頂いた。  その日以来、彼女はたびたび公園に姿を現した。  一方的に話しかけてくるうち、相手の名前が水花らしいということは分かった。  私から特にこれといって、言葉を交わすことはなかった。  お互い木陰の風がそよぐ涼しいベンチで、少し休んでは家に戻るだけ。  そんな水花がある日、透き通るような栗色の長い髪が美しい、仲間を連れて来た。 「まあ!   可愛いお友達ですこと」  言うなり彼女は、不躾にも私の頭をさらさらと撫でた。 「やめておけ、雷花姉ぇ。  嫌がっているではないか」  水花が私との間に、すっ、と割って入った。 「私ったら、つい。  ごめんなさいね」  軽く栗色の髪の少女が、軽く頭を下げた。 「そうですわ!」  そしてぱんっ、と両手を打ち合わせる。 「せっかくの機会ですもの。  小鷹さんにも、紹介してあげてはいかがでしょう」 「だめだ」  水花が残念そうに、ふるふると頭を振った。  どこか悲しさと諦めの混じった瞳で、私を見つめて一言呟く。 「小鷹女史は、猫アレルギーなんだ」
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加