序章 私がメイドになったわけ

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 黄昏時の白花邸。  九月の柔らかな西日を受けて、純白の壁面は茜色に変わりつつあった。  小高い尖塔上には、古びた青銅の風見鶏。  館の主である、白花(しらはな)姉妹の帰宅光景を、のんびりと見守っている。    まるで、彼女達の無事を喜ぶかのように、  時折風を受けては、くるくると回って見せる。  迎賓の間に安置された巨大な柱時計は、四時半を差している。  少し早目に夕食の買い物を終えた私を待ち受けるのは、本日のお茶当番の役割。  私、紅鳶小鷹(べにとびこたか)は小さな家事代行会社で、ハウスメイドを務めている  頻繁に長期海外出張へ出かける、友人の白花夫妻の代わりに。  掃除係として広大な邸宅へ、住み込みを始めた。  そこで私を待ち受けていたのは、夫妻の子どもである中学生の姉妹。  家事のついでと言わんばかりに、成り行きで二人の世話係を買って出るはめになった。  業務時間は子ども達の都合により、朝方から深夜までまちまち。  運よく仕事が早く終わった日にはこうして、長女の趣味であるお茶会を嗜んでいる。  天井の高い部屋の中央に据え置かれた、趣味の良いマホガニー製の円卓。  純白のテーブルクロス上には、銀器のプレート。  少々焦げ気味の、黒いクッキーをずらりと並べる。  これでも私が、手間暇かけて焼き上げたばかりなのだ。  一口味見した時、賑やかな声と共に、エントランスのパーティションドアが開いた。
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