序章 私がメイドになったわけ

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「あら小鷹さん。ただいま戻りましたわ」  丁寧な物腰の雷花(らいか)ちゃん。  若竹中学の三年生。  すらりとした長身が、学校指定の紺色セーラー服に良く映える。  艶々に手入れされた、ダークブラウンの髪。  慈愛に満ちた大きな瞳。   大人というにはまだ幼い年齢なのに、どこか気品というか風格が漂っている。   「帰ったぞ。小鷹女史」  しっかり者ではきはきした性格の、水花(すいか)ちゃん。  同じく、若竹中学の一年生。  肩で揃えた漆黒のショートヘアに、今年下ろしたての秋用制服という出で立ち。  同級生と比較して、やや小柄な体つき。  まだまだ幼い面影を残しながらも、目にはキリッとした鋭い光を宿している。  少し前まで小学生だったとは思えないほど、達観した考えの持ち主。  さすがは我が親友の子供達だ、と一人ごちる。  個性の強さは親から子へ、しっかり受け継がれたものと見える。  昔から私を蝶よ花よと甘やかしてきた、しっかり者の友人。  大学生の頃、西洋人の資産家をさっさと捕まえ二子をもうけた。  二十半ばで、浮いた話の一つも無い私とは大違いだ。  今では夫につき従い、頻繁に海外を訪れる身。  多忙な友人きっての願いで、ハウスメイドの私は白花邸専属として雇われることになった。  紹介された眉目秀麗な夫は自らを、小国のサイキック捜査官だと名乗った。  さすがの私も、結婚詐欺ではないかと疑った。  しかし娘の雷花ちゃんと水花ちゃんは、まぎれもなく私の理解を超えた超自然的な力を、受け継いでいたのだから驚きだ。  三人ともが各々手を洗って、席に着く。  夕方五時の黄昏時。  私が一日の内で、最も楽しみにしている時間だ。  今日も白花姉妹との、心躍るお茶会が始まるのだから。
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