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緑の芝生を踏み越えて丘の頂上に辿り着くと、そこにあったのは大きく咲き誇る、桜の木。
「……ここ、は」
秋良から思わず声が漏れる。見覚えのありすぎる、その風景に。
まるで身体が鉄にでもなったかのように動けなくなった秋良が、呆然と桜の木を見上げていると、桜の木の反対側に居たらしい誰かの人影が揺れた。
のろのろと視線をそこへ移し、そこに居た青年を見出した秋良は、二度目の驚愕に出会う事になる。
「孝則?」
「……っ!」
視線を合わせた途端、思わず口から零れるように発せられた秋良の呟きに反応するかのように、桜の木の陰から現れた青年はこれでもかという程に目を見開いた。
そして、その両目からぼたぼたと涙が溢れる。
「え、ちょ……何。だ、大丈夫…ですか?」
自分より年上だと思われる成人男性が、声こそ出してはいなかったが人目もはばからず大泣きする場面などそう遭遇するものではない。
秋良の身体は、驚きの上に驚きを重ねられ過ぎて固まるのを止めたらしい。
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