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とりあえず目の前の男性が泣いているのは、全く心当たりはないのだが自分と無関係とも思えず、何もないよりはましかと、ジーンズの後ろポケットに突っ込んであった少しよれたハンドタオルを差し出そうと一歩踏み出したところで、今度は違う力によって身動きできなくなっていた。
「殿!」
「は? ……って、何だ何がだ!」
泣きじゃくる男性にどうやらがっちり抱きしめられているらしいと気付いた時には、もう逃れられる状況ではなかった。
自分より体格のいい男ががむしゃらに抱きついてくるというあり得ない事態に対応するまでに、時間がかかり過ぎたのは責められる事ではないと思う。
結局、秋良は男性が落ち着くまでその体勢を維持し続ける事を余儀なくされた。
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