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男性の言葉遣いが妙に礼儀正しいから余計につられてしまったような気がする。普通、年下の男にここまで丁寧な喋り方をするものだろうか。
「あ、じゃあ遠慮なく……。そっちも、その喋り方崩してくれていいから」
「はい」
秋良の言葉に頷いた声は、到底崩れた様な返事には聞こえなかったが、あまり人様の話し方にまで文句を付ける筋合いもない。
この男性は、きっと元々丁寧な話し方をするタイプなのだろう。
「それで、聞かせてもらえるのか? 理由」
問いかけつつ、何となく秋良には理由がわかっていた。
何しろ抱きついて来た男性は、秋良の事を「殿」と呼んだのだ。そして秋良自身も、男性の姿をみて思わず「孝則」と呟いた。
これを偶然と片付けるにはいろいろと状況が揃いすぎている。
「ご説明するのは、結構難しいのですが……。端的に申し上げますと、私はずっと長い間貴方を探し続けてきたのです」
「本当に端的だな。探してたって言うその理由を、俺は聞きたいんだけど」
「貴方は、私の事を御存じではありませんか……?」
「知っていたら、こういう質問はしない」
探る様な祈りにも似た質問を、申し訳ない気持ちがないわけではなかったが、きっぱりと切り捨てる。
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