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確かに、男性に似ている人物に心当たりはある。けれどそれは単なる夢の中の事で、現実世界で秋良が男性の事を知る機会は一切なかった。
いくらなんでも、夢と現実の区別がつかないような歳ではない。夢の中でお会いしましたね、なんてどんな挨拶だ。
「そう、ですか……」
「あんたは、ええっと……」
「椎名孝則、と申します。すみません、今日は名刺を持ち合わせていなくて」
「……たかの、り?」
そういえば名前を聞いていなかった為に呼びかけ方に困っていると、椎名孝則と名乗った男性は礼儀正しく自己紹介をした。
その名前に、秋良が戸惑うのは当然だ。
徐々に、あれは夢ではなく現実なのだとつきつけられている様な錯覚に陥る。ぐらりと眩暈を起こしそうになった秋良に、タイミング良く孝則の言葉が重なり、一瞬の違和感でそれは消えていったけれど。
「はい。あの失礼ですが」
「俺は江藤秋良」
「……江藤様、ですか」
「あーっと、秋良でいいって。俺も孝則って呼ばせてもらうし」
「では、秋良様と呼ばせて頂きます」
「様って……、俺あんたに何かした?」
「いえ、ですがこの呼称が一番良いかと思われます」
「ああ、そう。もう好きにしてくれ」
言葉遣いを気兼ねないものにしてもらうどころか、様付けと来た。
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