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「ただの夢の話だ。さっきの台詞は印象的だったから覚えていただけで、お前の言いたいんだろう記憶とかそういう次元の話じゃない」  本当は結構鮮明に覚えている台詞のやり取りや、いつも目覚める前に展開されるシーンについては伏せて置く。  目の前に現れた孝則を見ても、秋良にとって夢は夢だという感覚は変わらない。  偶然にしては確かにすごいとは思うが、夢の中の出来事をもしかしたら自分の過去の出来事だと思うよりは、偶然夢の中の登場人物に似た人間が現れて自分と同じ夢を見ていたという方が、まだ現実的だと考えられるからだ。  それに、もし孝則が秋良と同じ夢を見ていたとして、それを過去の自分だと思い込んでいたとしても、今出逢ったばかりの秋良と孝則が夢の中の二人と同じ関係にならなくてはいけないわけではないはずだ。  知っているのに知らない振りをする、その後ろめたさを埋める様に良い訳を考えている自分に苦笑する。  夢は夢。それだけでいいはずなのに、引きずられている。 「例えそうだとしても、嬉しいです」 「え?」 「貴方から、もう一度そのお言葉を頂けただけで」 「お、おい」 「ここで待っていれば、必ず会えると信じていました。この身は、貴方だけの為に……お傍に居る事をお許しください」     
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