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「本当は、生き延びて欲しい。領土など捨ててくれてもよいのです、貴方様さえいて下されば」
「俺はここで逃げるわけにはいかない」
絞り出す様に告げられた祈りにも似た孝則の言葉に、青年はきっぱりと首を振る。
固い決意を秘めたその瞳は、これ以上の願いを聞き入れる事は出来ない事を物語っていた。
浅くない付き合いであるらしい孝則には、それだけで十分察するところがあったらしい。頭を垂れて、ただ謝罪する。
「出過ぎた事を申しました」
「だが……俺も同じ気持ちだ、お前には生きていて欲しい。今ならまだ……」
「例え貴方様のご命令でも、それだけは承知致しかねます。私は、最期までお側を離れるつもりはございません」
「……孝則」
今度は青年の言葉を遮って、孝則がきっぱりと否定する。
顔を上げて青年を見つめる孝則の顔は、先ほどの青年に負けず劣らず強い意思を宿しており、これ以上の言葉は不要であるようだった。
例え無理矢理に引き離されても、どこまでも付いて行く。そう暗に告げられている事を読み取れないほど、鈍感ではない。
「どうか同行の許可を」
「許す」
「有難き幸せ」
「もし来世と言うものがあるとしたら、またお前と共にありたいものだ」
「そのお言葉だけで、私はこの一生に悔いはございません」
「大げさだな」
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