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引き留めてくると予想していた秋良は、特に抵抗もせずその言葉に振り返って不安そうな孝則に、してやったりという笑みを返す。
「交渉成立?」
「よろしく、お願いします」
「了解。じゃあさ、言葉遣いを変えろ……とまでは言わないから、せめて俺の事は呼び捨て。オーケー?」
「え、いやそれは……」
「孝則、歳は?」
「三十一ですが……」
「うん、やっぱ俺より年上だよな。俺がそうして欲しいって言ってるんだし、何も遠慮する理由ないと思うけど?」
「…………」
「い い よ な」
「わかりました……秋良」
「よし」
無言の笑顔で譲らないという圧力に屈した孝則の負けが決定し、秋良はお互いの呼称を呼び捨てにするという約束を勝ち取った。
若干、まだ上下という関係を引きずっている孝則に命令に似た指示をした感が否めないが、この歳になってからの新しい友人関係というものは、学生時代に育むものとは性質が違っているように思うし、形から入ってもいいだろう。
満足そうに頷いた秋良につられた様に、孝則もくすりと微笑を浮かべ、押し問答の結果は成功だという感触を得た。
途端に、秋良の腹が盛大に鳴る。
そういえば、食事の場所を求めて出てきたのだと本来の目的を思い出す。秋良が落ちつけと言う様に腹を擦ると、孝則が戸惑いながらも友人らしい提案をしてくれる。
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