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 今回の辞令も、場所こそ都会とは離れた場所であるが提示されたポストは社長であり、父がゆくゆくは自分に跡を継がせたいと考えている事は明白だった。  秋良には二歳下の弟がいる。秋良がこのまま親の跡を継ぎたくないと駄々をこねれば、そのお鉢は近い内に弟に回る事になるだろう。  弟とは特に兄弟仲が良いというわけではない。喧嘩もすれば仲良く出掛けたりもする、世間一般的にいう普通の兄弟だ。  ただ、疑問を感じつつも結局は何の目標も持たずただ流されて生きてきた秋良と違って、今もまだ夢を追いかけ続けている弟を応援したい気持ちはある。  だから弟に責任を擦り付けるのは忍びない、そんな風に弟に理由を押しつけていることを理解しながら、秋良は親の敷いたレールの上を進む選択をした。  けれど、文句を言いつつも他の道を目指す訳でもなく乗っかってしまったレールの上は、意外と自分に向いていると最近になって気付いたからかもしれない。  弟の事は建前になりつつあり、今では少しずつ上に立つ責任を考えるようになってきている。  そして多分一番の理由は、あの夢を見始めた事だ。  今年二十六歳になる自分より、恐らく弟よりも幾分年下だと思われる青年が、何人いや何十人もしかしたら何百人という民の命を一人で背負っている。     
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