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 夢の中の時代、それが過去の日本だと仮定するならば、余程の信念をもって下剋上でも起こしたのではない限り、その命の責任を取る立場になるという事は、自分で決められる事ではなくその出自に左右されるものだろう。  選択の余地さえもなく、重い荷物を生まれた時から背負わされる運命をただ受け入れる。  それを思えば、拒否する権利も逃げ出す事も出来た自分の我儘など、なんと小さい事だったのだろうと思わざるを得ない。  何より、あの青年に出来て自分に出来ないと思われるのが悔しかった。  夢の中の住人と比べられる事など、あるはずもないとわかってはいるが。どこかで引っ掛かった事も事実だ。  受け取った時には渋々だった今回の辞令は、いつの間にか自分にとってとても大切な一歩だと思うようになっている。  だからここに来た事に今更後悔はないが、今までずっと都会で育ってきた身からすれば、この地が不便に感じる事はどうしようもなかった。  とはいっても、秋良の住むマンションのある場所は田んぼと山と川に囲まれたような所ではない。  恐らく、どちらかと言えば発展している部類に入る場所なのだろう。少し歩けば中規模と言える駅だってあるし、飲食店やスーパーも立ち並んでいる。生活する上で困るという事はないのだ。  ただ、望むものが望むだけ手に入る場所ではないというだけで。     
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