195人が本棚に入れています
本棚に追加
もし本当は気のせいではないのだとしても、気のせいだということにしていい、そういう許可をわざと取った。どんどん重なっていく自分と殿との感情に蓋をするように。
孝則の用意してくれた朝食は、確かに二日酔い気味の身体には染み渡る様で、噛みしめるように食べ終える頃には、頭痛も随分と治まっていた。
この調子だったら、今日一日問題なく過ごせるだろう。
社長就任二日目にして、二日酔いでダウンなどという失態は晒さなくてよさそうだ。
二人乗りを勧めてみたが「駄目です」としっかり諭され、この日は昨日の帰りと同じように自転車を押しながら二人で歩いて通勤する事になった。
通りがかった桜の木の丘の傍で、孝則が遠くに見える桜を愛おしそうに目を眇めて眺める姿も、昨日と全く同じだ。
きっと孝則は、この桜を見るたびにこんな表情をしてきたのだろう。
そして隣に秋良がいるにもかかわらず、そうした顔をするという事は。まだ秋良の存在が孝則にとっての殿の存在に敵わない事を知らされると言う事でもあった。
(敵うとか、敵わないとか。俺は孝則にどう思われたいんだ)
つい先ほど、友人という関係でいたいと示唆したのは自分の方なのに。殿を思い出して優しい顔をする孝則の態度が気に入らない。
ただの我儘にしては、独占欲が強すぎて。子供じゃないんだからと、自分自身に呆れる様につい溜息が洩れてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!