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画面を一度スライドさせれば、エディへ連絡が出来る仕様だ。複雑なことは覚えていられないので、これはグレーズの持つ端末専用の機能である。
耳に押し当て、彼の応答を苛々と待つ。5コール目で呼び出し音がようやく途切れた。
『……なんだよ。もう迷子か』
出るなり愛想の欠片もない疲れた声が聞こえる。
不機嫌顕わだが、こちらも負けてはいられない。聞いていた依頼内容が違うのだから。これは従業員として捨て置けない。
「あっはっは! 残念! もう既に着きましたー!」
『ほぉ、そいつはおめでとう。じゃ、俺、仕事忙しいから』
「ちょっと! おい、待てコラ! 用事はそれだけじゃないんだよ!」
電話口から声が遠ざかっていくのを全力で阻止する。
エディは舌打ちすると、喉の奥から限りなく低い音を響かせた。
『グレーズ。俺、言ったよな? 朝は忙しいから連絡するなって。大したことないだろ、どうせ……あ、いらっしゃいませー。ほら、客が来るから。また後にして』
「はいはい、大変そうですねぇ。でもね、依頼内容を間違えるたぁ、さすがの僕も困るというかさぁ、子守とか聞いてないしね。疲れてるから~なんて理由になりませんよ、所長さんよぉ」
こちらも相応の態度で向かうしかない。間延びした声でグレーズは困った体を装う。
だが、エディからの応答はいくら待ってもなかった。
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