79人が本棚に入れています
本棚に追加
「ガイシケイ……なるほどなぁ~、うん、分かる分かる。僕もね、ガイシケイはちょっと苦手って言うかさ。いや、僕は天才なんだけどね。やっぱ苦手な分野もあるよね」
「……」
あたかも話が分かる体でグレーズはしきりに頷いていた。
それをアンリエッタは不機嫌そうに見上げている。探りを入れる大きな目。少し、うつむき加減に見やっている。それはまるで、人に慣れていない警戒レベル最上級の小動物のよう。
「お母さんが言っていたけれど、アンタ、探偵なのよね? それに、わたしの言うことなんでも聞いてくれるって」
「はい! なんでも!」
確かに、夫人からの追加依頼はそういうものだった。
アンリエッタの機嫌を損ねないこと、と念を押されている。
それに、まだたった六歳の年端もいかぬ子供だ。おやつの用意だのままごとの相手だのそういったことならば容易い。どんな要求でも喜んで引き受けるつもりだった。
すると、アンリエッタはコートをぐいっと乱暴に掴んできた。少し、バランスが崩れてしまう。
「なんでもするって、言ったわね?」
「え、はぁ、まぁ、はい。なんでも、しますケド……」
ころりと可愛らしい少女の声なのに、何故か圧が強い。思わずしどろもどろになる。
「それじゃあ、ちょっと、早速で悪いんだけれど頼みがあるの」
少女は値踏みするように、口の端を釣り上げて笑う。
最初のコメントを投稿しよう!