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何故だろう。いたいけな可愛らしい少女なのに、狡猾な詐欺師に見えてくる。その小さな唇からひっそりと言葉が紡がれた。
「あのね、わたしのジェニーを取り返して欲しいの」
「ジェニー?」
「えぇ、そうよ。わたしの可愛いジェニーがね、この前、盗まれちゃったの」
「なんだって!?」
ジェニーがなんなのか分からないのに、グレーズは大声で驚いた。アンリエッタが両耳に指を突っ込んで目をつぶる。
「うるさいわね……いい? わたしの可愛いジェニーをちゃんとわたしの元へ届けてくれたら、アンタを認めてあげるんだからね」
そう言うと、彼女はふふんと鼻で笑い、腕を組んでグレーズを見上げる。体は小さくとも、威厳だけは一丁前だ。
グレーズは頭を掻き、苦笑を浮かべた。少女の頼みとあらば、それが依頼というのなら、喜んで引き受けるのがレグルス探偵事務所の方針だ。
まぁ、仕事がなかなか舞い込まないから、という理由も含むのだが。
「……えっーと。それじゃあ、その、ジェニーってのがどんなのか教えてくれない?」
さすがに、見ず知らずのジェニーとやらを探すのは難解だ。
グレーズの困惑した声に、アンリエッタは「それもそうね」とあくまで上からの姿勢を崩さなかった。
***
さて。
アンリエッタが言うには、ジェニーとは大きくふんわりとしたテディ・ベアだという。
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