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途端、アンリエッタがダイニングのテーブルを思い切り叩く。クッキーがバウンドするほどに。
「だから! 盗まれたって言ってるじゃない!」
「おおっと、あっぶねぇ」
クッキーは死守する。
「ふーむ……それならさ、どうしてパパやママが大騒ぎしないんだよ。なかなかの大事じゃない? そ、れ……え?」
別に、彼女を泣かそうと言ったわけではない。それなのに、透き通ったエメラルドの下からぼろぼろと涙がこぼれ落ちていった。
「うわぁ、ごめん! いや、そんな、意地悪のつもりじゃなかったんだよ……泣かないで、お願い! ほら、クッキーあげるから」
「うるさい! それはわたしのクッキーよ!」
菓子皿をアンリエッタは乱暴に引き寄せて、むしゃむしゃと小さな口に押し込んだ。甘さが口内に広がれば、涙も少しは止まってくれる。
ただ、グレーズに対する不信感だけは拭えぬままのようで、じっとこちらを睨めつけていた。
一方で、鈍感なグレーズはマイペースに椅子から立ち上がる。
「よーしよし、分かったよ。これだけ情報があれば探せるはずさ。僕に任せて、アンリエッタ」
「この流れで信用出来るわけないじゃない……」
膨らんだ頬でもごもごと言うアンリエッタ。まだ睫毛には雫が残っている。それを指ですくい、グレーズは柔らかく微笑んだ。
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