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ジェニーが絡むと素直になる我侭少女は、二階へと駆け上がり、やがてパタパタと足を踏み鳴らして戻ってきた。
「これ!」
彼女が持ってきたのは、自作のイラスト。紙いっぱいに描かれた、クマと思しき形……それをパシャリと端末に保存すると、そのままメール送信のアイコンが飛び出した。
「なあに、これ」
「ん? まあ、見ててよ」
送信が完了し、グレーズは端末の画面をスライドさせた。今度はコールなしですぐに通じた。
「あ、エディ、今……」
『グレーズ、ふざけてんのか』
声を遮る罵声。その暗く厳しい声が端末の外にも飛び出したせいで、近くにいたアンリエッタが肩をびくりと震わせた。
『あんな落書きじゃ分からん。もっとマシなの寄越せ』
「はあ? ふざけてんのはそっちだろーが! 可愛いアンリエッタが一生懸命描いたジェニーにケチつけてんじゃねーよ、このボンクラ野郎!」
あんまりな言い草に、こちらまで腹が立つ。
グレーズの怒鳴り声に、アンリエッタはダイニングへ逃げたが、ちらりと様子を窺っていた。
「ちゃんと見ろ! よーく目を凝らせ!」
『あーもう、分かった、分かった』
呆れた口調だが、僅かに焦りが見える。エディは電話の奥で「クソ」やら「うーん」やら悪態と唸りを繰り返していた。
その間、グレーズは爪先をとんとんと床に打ち付けて待つ。
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