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その声に、彼女はおずおずと動いた。鼻をすすり、涙を目に浮かべてグレーズを見上げる。
「もう、もう……っ! こわ、かったぁぁぁっ」
「ごめん、ごめん。まさか、君、遊園地のジェットコースターとか苦手なの?」
「それとこれとは別よ! 次元が違うもの!」
走りながらおどけるグレーズに、アンリエッタは頬を膨らませて足をジタバタ動かした。
「あ、コラ、暴れないで!」
「うるさい! もう! わたしに何かあったらママンが黙ってないんだから!」
「へいへい……おっと、缶詰工場が見えてきたよ」
アーチ状の屋根と、白い壁が特徴的の大きな建物が目の前に現れる。
道路を叩くように走り、急停止するグレーズは思わず両足に力を込めた。まるで、砂の上に立ったかの如く、硬いアスファルトが盛り上がってヒビが入っていく。
「おっと、やべえ。またやっちまった……」
「他の壁も崩してたわよ」
重々しいアンリエッタの証言に、グレーズは顔を引きつらせた。
「マジかよ……うん、まあ、後で怒られるのは仕方ないとして、アンリエッタ。ジェニーを探すよ」
「うん……でも、大丈夫かしら」
不安を隠せず、アンリエッタが辺りを見回す。そんな彼女を地に降ろすと、グレーズはパタパタと工場に駆け寄った。
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