1件目:馬鹿と天才は紙一重

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 石畳をタタッとリズミカルに踏み鳴らす音が聴こえる。  昨夜は雨が降っていたものだから、敷き詰められた石の隙間に水がたまっていた。それを軽々と飛び越えれば、石が僅かに軋んでしまう。 「おっと、いけね」  踏みしめた足を慌ててあげ、しまったと言わんばかりにぺろりと唇を舐めた。 「おい、グレーズ!」  背後でパン屋の親父から呼びかけられ、グレーズは金色の髪をふわりと翻す。 「お前はまた……走るなといつも言われてるだろうが。また道を壊す気か?」 「しょーがないだろ! 寝坊したんだよ!」  頬を風船のように膨らませて大声で言い返した。歳相応のむくれ顔に親父は緩んだ溜息を漏らす。 「仕事か? あぁ、そう言えば、エディがこの辺の店全部に挨拶してたなぁ……」  その言葉に、グレーズは眉をぴくりと上に動かした。 「うへぇ……マジかよ」 「まるで、子供のお遣いだな。で、今日はどんな依頼なんだよ」 「あぁ、そうそう」  グレーズはコートのポケットに突っ込んでいた走り書きのメモを取り出す。そして、メモに沿って目を走らせる。ついでに口も動いていく。 「えっとねぇ、今日は6番街のローレンス家に行くんだけどー」     
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