79人が本棚に入れています
本棚に追加
石畳をタタッとリズミカルに踏み鳴らす音が聴こえる。
昨夜は雨が降っていたものだから、敷き詰められた石の隙間に水がたまっていた。それを軽々と飛び越えれば、石が僅かに軋んでしまう。
「おっと、いけね」
踏みしめた足を慌ててあげ、しまったと言わんばかりにぺろりと唇を舐めた。
「おい、グレーズ!」
背後でパン屋の親父から呼びかけられ、グレーズは金色の髪をふわりと翻す。
「お前はまた……走るなといつも言われてるだろうが。また道を壊す気か?」
「しょーがないだろ! 寝坊したんだよ!」
頬を風船のように膨らませて大声で言い返した。歳相応のむくれ顔に親父は緩んだ溜息を漏らす。
「仕事か? あぁ、そう言えば、エディがこの辺の店全部に挨拶してたなぁ……」
その言葉に、グレーズは眉をぴくりと上に動かした。
「うへぇ……マジかよ」
「まるで、子供のお遣いだな。で、今日はどんな依頼なんだよ」
「あぁ、そうそう」
グレーズはコートのポケットに突っ込んでいた走り書きのメモを取り出す。そして、メモに沿って目を走らせる。ついでに口も動いていく。
「えっとねぇ、今日は6番街のローレンス家に行くんだけどー」
最初のコメントを投稿しよう!