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「おいおい。聞いた手前、こう言っちゃなんだが、探偵が依頼内容をべらべら喋っていいのかい」
「え? あぁ、いーのいーの。だって、エディが僕に回した依頼だよ? 簡単、楽ちん、うっかり喋ってもなんとかなるやつに決まってる」
楽観的に言い、更には鼻で笑う始末。これにはパン屋の親父も失笑だ。
「それより親父よ。僕を呼び止めたからには、分かってるだろうね?」
ずずいっと親父の鼻先に詰め寄るグレーズ。にやりと口の端を横へ伸ばす。
親父は眉をひそめて、「ちょっと待ってろ」と店の中へ引っ込んだ。
ガラス窓越しの店内には、焼きたて熱々のパンが並んでいる。グレーズは、にこにこと小麦の香りを嗅いでいた。
「ほれ、もってけ。どうせ、飯食ってないんだろ」
親父はバケットの端っこを切り落としたものをグレーズに投げて寄越した。
見事、空中でキャッチする。
「ひゃっほい……あれぇ? これだけぇ? ハムとチーズは?」
「走りながら食えんのかよ……でも、まぁ、そう言うだろうと思って」
親父は腰に巻いたサロンのポケットから、カットしたチーズとトマトを取り出した。それをすぐに奪い取る。
「わりぃな、それで勘弁してくれ」
「充分! ありがとー!」
グレーズは真っ赤に熟れたトマトを見せて笑う。
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