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親父は「気をつけて行けよー」と手を振り、グレーズも倣って手を大きく振った。
弾力のあるバケットを豪快に噛みちぎり、グレーズはメモを改めて読み返した。
昨日に依頼が入ったと、所長兼相棒のエディは言っていたが……内容は、家の留守番を頼みたいとのこと。
――探偵っつーか、これはもはや便利屋というか何でも屋というか……。
しかし、留守番なら慣れっこのグレーズである。
「留守番のプロと言っても過言じゃないね!」
意気揚々と依頼を引き受けたが、エディの目には不安の色しか浮かんでいなかった。
さて、そんな回想は脳の隅に追いやってしまい、チーズをごくんと飲み込んで住所を確認する。
「6番街、紫陽花通り3番地……おっきな家だって言ってたなぁ……ひょっとして、金持ちか?」
だったら美味しいご飯が食べられるかもしれない。
まぁ、あのパン屋も美味い品揃えではあるが。ふかふかのパンは好物だ。
「ふむふむ」
トマトを齧り、果汁をすすりながら爪先で石畳を叩く。
道路を走る車を横目で見やり、5番街の信号を待つこと数秒。トマトもバケットも全部食べ終えたグレーズはメモの位置をしっかり頭に叩き込んだ。
信号が変わる。
「よーし」
とん、とん、とん。意気込むように、つま先で地面を小突いた。
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