79人が本棚に入れています
本棚に追加
「ん? あれ? ちょっと、聞いてる? 聞いてないよね? 呑気に豆挽いてる場合ですかね!? ちょっと!」
恐らく、コーヒーカウンターで接客をしているか豆を挽いているかどちらかなのだろう。仕事に勤しむ彼の邪魔はしたくないが、あまりにも扱いがぞんざいだと思う。
グレーズは溜息を吐いて、応答のない端末をぶちりと切った。画面にヒビが入ったような気がしたが、まぁいいだろう。
それよりも、依頼をこなさなくてはならない。
いくら単純思考回路でも、言われたことはきちんとやり遂げたい正義感くらいは併せ持っている。
「よーし、こうなったらお嬢ちゃんの相手でもなんでもやってやんよ。この最強無敵な天才グレーズ様を舐めるなよ」
夫人が言うには、一人娘のアンリエッタは部屋に引っ込んでるとのこと。二階の隅の部屋がお嬢様の部屋らしい。
グレーズは階段を跳ね上がると、目当ての扉を優しくノックした。
「おはようございます。マダムから依頼をお引き受けした者ですー。アンリエッタ、起きてますかー?」
……返事がない。
扉に耳を押し付けても、物音一つしない。
「っかしーな。あれれ、この部屋じゃない? あ、もしかして言葉が悪かったか?」
それならば、もう少し丁寧にしたらどうだろう。
最初のコメントを投稿しよう!