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グレーズは息を吸い込んで、穏やかな声音を喉から引っ張り出した。
「お嬢様、おはようございます。どうぞ、この扉をお開けくださいますでしょうか」
……それでも返事はない。ウンともスンとも言わない。
耳を押し付けても、やはり、衣擦れ一つしない。
「えぇ? なんで!? どういうことさ! いるんでしょー、お嬢ちゃん! 挨拶くらいさせてくださいよー! でなきゃ、この扉ぶち壊しますよーっ!」
足を上げて、扉に向かって、勢いよく……しかし、板をぶち抜くことは出来なかった。慌ててノブを回して、扉が小さく開かせた少女の手が見えたからだ。
「……いるから。ぶち壊したら、承知しないんだから」
ふんわりとした栗毛に、大きな両眼は大粒のエメラルド。その愛らしい容姿をちらりと見せた少女は、警戒の面持ちでグレーズを睨んでいた。
それでも、扉を開いてくれたならきちんと感謝しなくてはいけない。上げていた足を降ろし、グレーズはにっこりと笑った。
「はじめまして。4番街のレグルス探偵事務所から来ました。どうぞ、よろしく」
淡いターコイズの両眼を輝かせ、小さな依頼人を見つめる。
「僕のことは、グレーズと呼んでね」
ここは街が時計回りにぐるりと順に並んでいる都市、クロノ・ヴィル。
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