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「……黒いタマゴの中身が……まだ、どこかに生きてるってことか……?」  琥珀色の前髪の下で、髪とおそろいの琥珀色の瞳がゆがんでる。  ヨウちゃんのお父さんはイギリス人。お母さんは日本人。だからヨウちゃんは、ハーフ。  鵤さんは、灰色のひげの間から、深い息をはきだした。 「わたしもね、昨晩ここに来てみて、はじめてこの惨状を知ったんだ。たしかに、おかしいよね。アザが進行していくだけではあき足りず、こんなふうに、妖精を丸ごと黒く染めてしまうなんて。 これは、異常事態だ。黒いタマゴの中身がどこかで生きていて、妖精たちに影響をおよぼしていると考えるのが、ふつうだね」 「そ、そいつをどうにかしないと、状況は悪化してくのかっ!?  黒くなった妖精はもう、助からねぇのかっ!?  あ、綾まで……」  ヨウちゃんの涙声が、あたしの胃をしめつける。  あたしまで……。 「すまない、葉児君。これ以上のことは、わたしにもよくわからないんだよ。 きみのお父さんが、イギリスから妖精のタマゴを持ち込んだ日からずっと、わたしは、浅山でそのようすを見てきた。だがね、しょせん、わたしは、しがない植物園の管理人でしかない。 フェアリー・ドクター(妖精のお医者さん)だったリズとはちがって、わたしには、なんの能力もないのだよ。 リズが生きていれば、さぞかし力になってくれただろうが……」 「……リズ?」 「……リース・ウィリアムスの愛称。オレのとうさんの名前」  はじめて知った、ヨウちゃんのお父さんの名前。  ヨウちゃんちの書斎にならんでいる本の作者名。英語だから、一度も読んだことがなかったけど。リース・ウィリアムスって書いてあったんだ……。 「しかし、せめてもと、こんなものを持ってきた」  鵤さんは、ポケットからなにかをとりだして、ヨウちゃんの右手のひらにのせた。  横からのぞきこんだら、小ビン。中で虹色の液体がかがやいている。虹色なのは、フェアリー・ドクターの魔法がかかっているあかし。
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