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「……これは?」
「大昔に、リズからもらったものでね。『マロウの液剤』だときいた。これで肌をおおえば、妖精のつかう悪い魔力から、身を守れる」
フェアリー・ドクターのつくった薬は、妖精の傷を治す。
妖精から受けた人間の傷をも治す。
「つまり……影響をおよぼしているヤツの正体が、黒いタマゴの中にいたモノならば、いちおうは相手も妖精なんだから、この薬が効くってわけか……」
ヨウちゃんは、ぎゅっとビンをにぎり込んだ。
なって数ヶ月の見習いみたいなもんだけど、あたしもヨウちゃんも、フェアリー・ドクター。
とくにヨウちゃんは、いつもお父さんの書斎にこもって、フェアリー・ドクターの勉強をしてる。
「綾、腕出して」
「うん」
ヨウちゃんが、あたしのコートのそでをたくしあげた。
う……。我ながら、気持ち悪……。
あたしの左手の手首からひじまで。墨を腕にこぼしたみたいに、真っ黒。
ヨウちゃんが一瞬、あたしの腕から目をそむける。だけどすぐに、奥歯をかみしめて、あたしの腕と向かい合った。
ビンのコルクを抜いて、少し小ビンをかたむける。虹色の液体が、腕の上につっと、こぼれる。
「……つめた……」
太い人差し指が、あたしの腕を軽くなでる。
マロウの液剤がうすくのびて、腕全体が虹色のベールに包まれていく。
虹色のかがやきの中に、下の黒が溶け込んで消えていく。
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