5/13
前へ
/148ページ
次へ
「……これは?」 「大昔に、リズからもらったものでね。『マロウの液剤』だときいた。これで肌をおおえば、妖精のつかう悪い魔力から、身を守れる」  フェアリー・ドクターのつくった薬は、妖精の傷を治す。  妖精から受けた人間の傷をも治す。 「つまり……影響をおよぼしているヤツの正体が、黒いタマゴの中にいたモノならば、いちおうは相手も妖精なんだから、この薬が効くってわけか……」  ヨウちゃんは、ぎゅっとビンをにぎり込んだ。  なって数ヶ月の見習いみたいなもんだけど、あたしもヨウちゃんも、フェアリー・ドクター。  とくにヨウちゃんは、いつもお父さんの書斎にこもって、フェアリー・ドクターの勉強をしてる。 「綾、腕出して」 「うん」  ヨウちゃんが、あたしのコートのそでをたくしあげた。  う……。我ながら、気持ち悪……。  あたしの左手の手首からひじまで。墨を腕にこぼしたみたいに、真っ黒。  ヨウちゃんが一瞬、あたしの腕から目をそむける。だけどすぐに、奥歯をかみしめて、あたしの腕と向かい合った。  ビンのコルクを抜いて、少し小ビンをかたむける。虹色の液体が、腕の上につっと、こぼれる。 「……つめた……」  太い人差し指が、あたしの腕を軽くなでる。  マロウの液剤がうすくのびて、腕全体が虹色のベールに包まれていく。  虹色のかがやきの中に、下の黒が溶け込んで消えていく。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加