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寒い……。
背中にとつぜん、巨大な氷を押しあてられたみたい。
あたしの手のひらの上で、妖精が腕をついて、黒い体を起こしてる。
銀色のトンボの羽が、ピンと張られていく。
「と、飛ぶっ!」
真っ黒の妖精は、羽をはばたかせて飛び立った。
「うわっ!? 」
顔をおおったヨウちゃんの腕に、激突しそうになって。数ミリ手前で、パッと真上にとびあがって。
コントロールを失った飛行機みたい。
「あ、綾っ! 足元っ!! 」
ハッと足を引いた。
黒い妖精たちが、次々に頭を持ちあげている。
むくり。
むくり。
むくり……。
砲弾倉庫跡のガランと四角い部屋のうす闇。鎌首のように身をもたげていく、黒い物体。
ヨウちゃんが、ふらふらと後ずさった。
ぺたん、尻もちをつく。
三、四、五、六、七人……。
黒い顔の中から、青い目だけが、ホタルの光のようにうかびあがっている。
羽を広げて、妖精たちが飛びたった。
ひとり、ふたり、三人……。
次々に羽を広げて、宙に舞う。
直線に飛んで。砲弾倉庫跡の部屋の、レンガの壁にぶつかりそうになって。と思ったら、逆に飛んで、お互いの肩にぶつかって。
出ていっちゃうっ!
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