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「綾っ! 後ろっ!! 」
ヨウちゃんの声が裏返る。
拍子に、あたしの指先はすっと動いて、マッチを摺っていた。
「わっ!? 」
細い棒の先に、小さな小さな炎がともる。
あたしはふり返りざまに、炎を、手に持ったエルダーの枝にうつした。
目の前に、黒いモヤの人影がそびえている。
大きい……。
身長は、あたしの二倍くらいもある。手も足も太すぎて、焼けこげた丸太みたい。
頭は天井についてもおさまりきらなくて、ななめっている。
「えいっ!」
あたしはモヤの胴体に、炎のついたエルダーの枝をつっこんだ。
『ぎゃあああああっ!! 』
老婆の悲鳴がつんざいた。
あたしがつきやぶった胴を中心にして、黒いモヤに穴が開きはじめる。
モヤが、散々に散っていく。
その枝を、あたしは巻きストーブにつっこんだ。
「エルダーの枝さん、こいつを……このバケモノを退治してぇ~っ!! 」
ぼっと、ストーブに炎がともる。
鼻につく木の焼けるにおいが、店内に立ち込める。
『ああああああああああっ!! 』
声だけをのこして、モヤが消えていく。
店内の空気に溶けていく。
店の壁にかかった丸い鏡に、こぶしほどのモヤがすがりついた。
そのままモヤは、鏡の中に吸い込まれるようにして、消えた。
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