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「ま、待ってっ! まだ、薬塗ってないよっ!! 」
追いかけたけど、間に合わない。
右に左にぶれながら、妖精たちはもう、砲弾倉庫跡からとびだして、ヒースの茂みにまぎれていく。
「い、行っちゃった……」
妖精って、きまぐれやさん。日本語だってしゃべれないから、話す言葉は「チンチンチン」とか「キンキンキン」とかいう、妖精語だけ。
でも、妖精たちはあたしと手を取って、笑ってくれた。いっしょにダンスをしてくれた。
しゃべれなくても、心が通じた気がしていたんだ。
なのに今は、石ころを相手にしたみたいに、気持ちがぜんぜんわからなかった……。
「全員行ってしまったか。十三人……。浅山の妖精すべてだ」
鵤さんも、丸い体をゆらして、砲弾倉庫跡から出てきた。
……すべて……。
つまり――例外はない――。
「薬は、葉児君にわたしておくよ。また、あの黒い妖精たちを見かけたら、塗ってやってほしい」
「……わかりました」
腰を起こしたヨウちゃんは、鵤さんに深々と頭をさげた。
「マロウの花や葉は、今の時期には手に入らないので、この薬があって助かりました。さっきは、荒っぽいことをしてすみませんでした」
「いやいや。きみが取り乱す気持ちも、じゅうぶんわかる」
鵤さんが、ポンと、ヨウちゃんの肩に手を置いた。
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