11/13
69人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
――ヨウちゃんのお父さんが、妖精に産ませたタマゴはふたつ。  最初にひとつ。一週間後にまたひとつ――。  最初のタマゴは、白いまま、ひょんなことから、人間のあたしのお腹の中に入った。  八年間。あたしのお腹であたためられて、タマゴは孵化した。  以来、あたしは、人間だけど、妖精にもなれるみたいな、おかしな体になっちゃった。 「……キレイだな」  ヨウちゃんがつぶやいた。 「えええええっ!」  ビリビリビリっ!って、全身に衝撃。  だって、ヨウちゃんがほめるなんて、めったにないのにっ! 「ど、ど、どうしちゃったの、ヨウちゃんっ!? 」 「しつれいなヤツだな。『思ったことは、ちゃんと伝えるように努力する』って、オレ、クリスマスに言ったじゃねぇか」 「それは……そうは言ってたけど……」  ヨウちゃん、うつむいて、ぽっぽと赤いほっぺたを、自分の手の甲で冷ましている。  むりやり、慣れないこと言うから……。  次に産まれたタマゴは、砲弾倉庫跡で八年間、孵化の日を待つ間に、黒いタマゴにかわっていた。  タマゴを黒くかえてしまったのは、タマゴを産んだヒメっていう妖精の、黒い感情。  それから、浅山にさまよっていた戦没者の霊たちの悲しみ。  おどろおどろしい黒いモヤでヨウちゃんを攻撃してきたタマゴを、ヨウちゃんは孵化する前に壊した。  だけど、中身はまだ、どこかに存在していて、妖精たちに影響を与えてる……。 「……綾。心配するな。オレがかならず、黒いタマゴの中身を見つけだして、今度こそ、ちゃんと始末してやる。そうすれば、おかしなアザもカンペキに消えるはずなんだ。おまえをあんな……黒い灰みたいには、ぜったいにさせない」  ヨウちゃんの声、震えてる。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!