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 朝日を浴びる小学校の三階の廊下。にぎやかな子どもたちの声がこだましている。  冬休み明け。  六年生の教室の壁にはまだ、三学期の目標や、みんなの絵をはってない。そのせいで教室は、やけに寒々として見える。 「真央(まお)ちゃん、有香(ありか)ちゃん、おはよ~」  大きな声であいさつしたら、ふり返ったふたりが、そろって口に人差し指を立てた。 「綾ちゃん、し~っ!」 「ほぇ?」  ふたりが気にしているほうを見たら、リンちゃんや青森(あおもり)さんや(くぼ)青木(あおき)たちが、もう席についていて、参考書を開いてた。 「みんな、きょうは学校に来るのが早いんだね。三学期の始業式がはじまるまで、まだ、二十分もあるよ?」 「私立中学受験組だよ。朝、一時間前から来て、補習やってたらしいぞ」  真央ちゃんが、かなり太めの腕を組んだ。  真央ちゃんは、態度も言葉づかいも男の子みたい。だけど、大福みたいなふっくらほっぺも、くしゃくしゃ天然パーマのボブ頭も、すごくやわらかくって、とっても女の子だと思う。 「試験まで、あと一ヶ月切っちゃったもんね。勉強に集中したいだろうから、わたしたち公立組は静かにしてようね」  有香ちゃんも、知的な黒縁メガネを鼻の上に押しあげた。バレエできたえた、すらっと細い体。長いしなやかな手足。  黒いつやつやの髪を、ふたつにむすんで胸にたらして。同じ歳なのに、有香ちゃんは、まるでたよれるオネエサマ。  ふたりとも、一年生のころからのあたしの親友。  それにしても、受験って、たいへんなんだ……。  あのオシャレ好きなリンちゃんが。今は、ツインテールをふり乱して、目をつりあげて、赤鬼みたいなんだもん。  青森さんも太い眉毛をしかめて、参考書をめくってる。
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