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 教室の中でヨウちゃんの姿をさがしたけど、真ん中の列の、一番後ろの席は、まだ、からっぽだった。  あたしたち、公立中学組は、のんきなもの。あと三ヶ月で中学生だっていうのに、勉強の量も生活のリズムも、今までとちっともかわってない。 「みんな~、おっはよ~っ!! 」  廊下から、バタバタと足音が近づいてきたと思ったら、(まこと)のちびっこい体が、教室にとびこんできた。  受験組がいっせいに顔をあげて、誠をにらみつける。 「ま、誠っ! し~っ!」  今度はあたしも、真央ちゃんたちといっしょになって。口に人差し指を立てて。 「あれぇ? どしたの~?」  誠は、大きな二重の目をクリクリ。  なんか拍子抜け。  誠とは、クリスマスに、ちょっとすごい別れ方したんだよ。  誠ってば、「ヨウちゃんからあたしを奪って、カレシになる」みたいなこと言ったんだから。  でも、きょうの誠は、ふだんどおり。  おサルみたいに、丸い横に広がった大きな耳。  綿のぬけかかった紺色のダウンジャケットを着て。パジャマみたいなグレーのスウェットをはいて。うわばきのかかとを踏みつぶして。  クリスマスのときみたいな、オシャレなかっこうをしていれば、アイドル好きの女子たちの目だって、かわってくるだろうにさ。 「おまえら、教室の入り口でなにやってんだよ?」  しらけた低い声にふり返ったら、ヨウちゃんがドア枠に腕でもたれてた。  モッズコートのポケットに左手だけつっこんで、右肩にグレーのランドセルをかけている。  こっちのほうは、いつ、だれが見ても、イケメンなんだよね。  服は、たいてい白か黒かグレーのトレーナーにジーンズで、たいして気をつかってないみたいなのにさ。顔立ちがイギリス人で、背がすらっと高いもんだから。いろいろ得してる。 「あ、ヨウちゃん、おはよ~」 「にこ~」って、笑いかけたけど、ヨウちゃん、眉をひそめて、怖い顔。  ぐいっと、後ろに肩を引かれたと思ったら、ヨウちゃんは、あたしと誠の真ん中に、ヌリカベみたいに立ちはだかった。  わ……敵意むきだし……。
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