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 休み時間。教室がざわついている。 「中条君が本読んでる……」  女子たちはみんな、ほっぺたを赤く染めて、チラチラ、一番後ろの席をふり返ってる。  そこにはヨウちゃんが座っていて、有香ちゃんみたいな黒縁メガネをかけて、左手でほおづえをついていた。  右手に持っているのは、本。  チョコレート色のブックカバーらしきものがかかった、辞書みたいにがっしりと厚い本。  ヨウちゃんって、ふだんの休み時間は、リンちゃんたち女子の取り巻きにかこまれているか。誠や大岩たちと、校庭にサッカーをしに行っているか。  学校で、本を開いたことなんてなかったのに。 「やだぁ~! メガネ男子の中条君も、カッコイイ~」 「ギャップ萌え~」  リンちゃんも青森さんも、ヨウちゃんの誘惑に負けて、参考書の前から立ちあがっちゃってる。 「ふ~ん。中条って、メガネかけるんだ。あいつって、視力悪かったっけ?」 「ダテでしょ? あたし、ヨウちゃんがメガネかけてるとこなんて、見たことないもん」 「そういえばたしか、あの人、昔、自分は両目視力2.0だって、教室で自慢してたよね」  あたしと有香ちゃんは、廊下側の真央ちゃんの席をとりかこんで、いつもどおりのまったりタイム。  それにしても、騒ぐ意味、わかんないなぁ~。  あたしは、本を読むヨウちゃんなんて、見慣れてるしさ。  髪の毛、琥珀色なのに、黒縁メガネなんかかけちゃったら、インテリきどってるチャラ男にしか見えない……。
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